新曲Billie JeanをMoon walkとともに全米に公開したのは1983年。彼が24歳のときだった。既にThrillerのヒットでスターダムへの道を駆け上りつつあったが、King of Popの座を不動のものにしたのはこの曲のMotown 25: Yesterday, Today, and Forever でのお披露目である。
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世界を魅了したBillie JeanとMoon walk
マイケルは、レコード会社Motownの25周年記念イベントへの出演を打診される。その条件は、Motownが過去に発売したヒット曲を演奏すること。
しかし、彼は79年に発表したOff the wall以来、ジャクソン5のチャイルドスター上がりを抜け出せない中途半端なスターという業界内の評判を覆すチャンスを長い間、伺っていた。
3月25日にロサンゼルスにあるパサデナ シビック オーデトリアムのステージで演奏した後、7週間後に全米でTV放映されることになっていた。
そのショーとTV番組は、自分をチャイルドスター呼ばわりした業界人に、あっと言わせるためには絶好の機会だったのだ。
だから、何の驚きもない過去のヒット曲ではなく、今までの自分の殻を打ち破り、世界に覇を唱えることができる武器が必要だった。
その一つが自ら作詞作曲したBillie JeanとMoon walkである。
Billie Jeanは、ダンスホールを舞台とした男女の恋愛模様を描いた曲である。
ダンスフロアで誰もが注目する美女が、周りに彼と踊るのは自分であり、自分のお腹の子の父親は彼だという。
それに対し、自分(彼)は彼女の恋人じゃない。お腹の子の父親でもない、わかってくれ。
という何とも大人な訳ありそうな二人の話なのである。
一見、男側からだけ語られる詞は男が本当のことを言っているようにも受け取れるが、女性側の立場からみれば嘘で塗り固められたわけでもなく、どっちの言い分が本当か分からない、そんな微妙なコンテクストで構成されている、雰囲気のあるものである。
マイケルが、敢えてこんな曲を作ったのは、チャイルドスター上がりでなめられることがないよう、思いっきりアダルト路線に振りたかったからだという。その狙いは見事に的中したといえるだろう。
制作側は当初、ダイアナ・ロスやスティービー・ワンダーにも飲ませた、「懐メロ」を歌う出演条件を曲げることに難色を示したが、事前に総合演出のドン・ミッシャーとプロデューサーの二人だけにBille Jeanを演技して見せ、納得させた。
一方、Moon walkといえばマイケルの代名詞だが、もともとは、ストリートダンサーであるクーリー・ジャクソンが踊っていたものを、3日間のレッスン代として、1000ドルを払って身に着けたものだという。
クーリーが自ら踊っていた時にバックスライドと呼び、一直線に後退するだけだった技を、マイケルが発展させ、回転と組合せることで、地上の歩行に見えないことからMoon walkと名付けて、一躍有名になり、マイケル自身のものとなった。
クーリーからのレッスンはBillie Jean発表の2年前だったが、その技に磨きを加えつつ、披露する一世一代の機会を虎視眈々と求めていたことになる。
そのまたとないチャンスがやってきたのだ。
ステージ当日、ジャクソン5としての演奏が終わった後、ソロとして発表。観衆は、ダンスと歌にざわついたという。
7週間後に放映されるTV映像の編集にもマイケルは事細かく要求を出し、当時アーティストの映像といえば、顔付近を拡大するクロースアップが一般的だったが、観る人が彼の踊りの一部始終を見て、真似られるように、ほとんどのシーンは彼の全身を映す構成になり、ディレクターであるドン・ミッシャーにこのカット割りから絶対に変えないよう、厳命したという。
周囲の感想
5月のTV放映の翌日から、全米の子供がマイケルの動きを真似して社会現象になり、ThrillerのCDの売り上げは再びうなぎ登りだった。ここで彼がKing of Popになるのは運命づけられた。
筆者はマイケルの死後Billie Jeanに魅了され、様々な映像を見漁ったが、この初お披露目の時のフレッシュでみずみずしいパフォーマンスがピカイチだと思う。
この時マイケルは弱冠24歳で、この後もダンスパフォーマンスはさらに円熟味を増し、規模もパサデナ シビック オーデトリアムを遥かに上回るスタジアムや、スーパーボールの幕間となるが、「昇り龍」の勢いを体現したこの時のマイケルのオーラに勝るものは無いのではないか。
TV番組、「1番だけが知っている」で、マイケル・ジャクソンオタクを自称する少年隊・東山紀之が震えたパフォーマンスの1位に上げたのも、この初お披露目のシーンである。
その後のマイケル
Billie Jean後も精力的に楽曲作りに取り組んだマイケルだが、発表するたびに以前の作品を超えることを期待された。完璧主義でもあるマイケルのリリースのペースは遅れ始める。それにCM中の大やけどや白斑病という病から、ついに精神が追い込まれる。
2009年、大々的なカムバックと称して発表されたツアーThis is itが始まる1カ月まで、帰らぬ人となってしまった。
その後This is itはツアー準備のドキュメンタリーとして発売され、大ヒット。2018年の印税収入が世界で100億円生まれているという。
BTS DynamiteはBillie Jeanをオマージュ
死後、はや12年になろうとしている。
昨年世界中で大ヒットしたBTSのDynamiteのMVでのダンスにBillie Jeanの振付が随所にオマージュされているのはご存知であろうか。
Dynamiteが「マイケル・ジャクソンをオマージュしたダンス」という情報はあるが、詳細はどこにも載っていなかったので、改めて見比べてみた。
上から髪をかき上げる仕草、右足の捩じるハイキック、ムーンウォークである。
両者の違いといえば、髪をかき上げる仕草はBillie Jeanが2回に対し、Dynamiteは各所で1回、
キックはBillie Jeanが計3回、Dynamiteが計5回、
Moon walkがBillie Jeanが計2回、Dynamiteが計1回(Choreography ver.には登場なく、無印版にのみ)
BTSも現代を代表するユニットであるが、キックの切れはマイケルに分があると思った。BTSのキックは捩じりがあまりなく、単に蹴り上げている感じだが、マイケルのキックは捩じりがあり、「魅せるキック」になっている。
キックだけでもこれだけ違うのだから、奥が深い。
こうやって、マイケルの振付に魅了された世界の舞踏家、振付師が今後もオマージュしてくれることを期待して已まない。
【参考資料】
・NHKBSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点『マイケル・ジャクソン降臨』」2015.4.22
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