トヨタEV戦略シフトについて考える

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12/14、EV化に消極的との指摘を受けてきたトヨタが、従来計画の2030年200万台のバッテリーEV(BEV)の生産台数を約1.8倍となる350万台に上方修正することを発表した。日本自動車工業会会長も務めるトヨタの豊田社長は従来、国内で何等かの形で自動車に関連する雇用550万人を守るために単にBEV化を推し進めればよいわけではない趣旨の発言を行ってきた。今回のプレスリリースは直接、従来の発言を訂正して述べるものではなかったが、世界の情勢や指摘に押される形での発表となった。ただ、30台という、モーターショーでも披露することのない多数の世界初公開の車両も合わせての発表だったことから、おそらく1年以上前からの急ピッチでの準備を経ての上での周到で見事なカウンターであったと言えよう。

今までグループ会社含め豊富な開発リソーセスをフル活用して「全方位戦略」を取ってきたトヨタだが、ここにきて唯一といってよい手薄領域であるBEVへの最大限に取り組む姿勢を鮮明にした。

1997年の量産型ハイブリッドカー(HEV)・プリウスの発売以来、1800万台を超える電動車を販売してきたトヨタは2021年に至る途上まで間違いなく環境車メーカのフロントランナーであった。普及してこそ貢献とのスタンスも頷ける。そのトヨタがどこで半周遅れの「追い上げが必要なランナー」になってしまったのか考察してみたい。

結論からいうと、BEVの利益がHEVを上回る算段がつけられないこと、FCV開発との相反性の2つが影響したのではないか。1つ目として、初代プリウスは利益度外視で販売したとの世評だが、当然トヨタとして次に考えるのは、今後主流となるHEVで利益を出すことである。トヨタほどのメーカともなれば戦略としてHEVと並行してどこかの時点でBEV開発が検討の俎上に上がったはずである。しかし大規模に、少なくとも日産がリーフで見せたような数量のBEVの販売計画は今まで打ち出してこなかった。HEVを利益に乗せるために躍起になるあまり、それよりもさらに明確に利益が出しづらいBEVの企画は合理性を追求すればするほど立てづらくなることは予想に難くない。

2つ目として、トヨタとして巨額の開発費を投じてきたFCVとの相反性である。巨額の投資を何年も継続するには、それが必要だと経営層が納得できる理屈が必要である。それはバッテリーEVの充電時間が「現時点の技術をベースにする限り」ガソリン補給のように短くするのは不可能でそれはユーザーの利便性に反する、という点に尽きる。遅くとも1990年代から燃料電池を開発してきたトヨタ技術陣の予想は30年近くたった現時点でも覆ってはいない。結果論ではあるが、それとは異なる方向から迫ってきたカーボンニュートラルの必要性によって、舵を切ろうとしていることになる。

ここで言いたいのは、トヨタの揚げ足取りではない。世界をリードし、資金力が豊富な会社でさえ、開発リソーセスは有限であり、ひとつ前の記事でも取り上げたVUCAの時代にあって、リソーセスをどこに振り向けどういうタイミングでどういったラインナップを展開するのか、という経営判断は困難を極めるということであろう。

ここからは、いちプラグインHEV(PHEV)ユーザーとして、充電面でこれからの電動化が本格化する今後の日本の自動車社会を展望してみる。2020年8月に納車して以来、約16カ月10000kmの90%をEVモードで走行してきたため、かなりEVモードに偏った乗り方をしてきた。率直な感想としては、充電して使用する電動車が少ない現時点でも充電ステーションは不足気味である。これが仮にトヨタが国内で3割のバッテリーEVを販売しだしたら我々のマイカーとしての使い方は一変することが予想される。

筆者が購入したのはトヨタ製PHEVだが、不満に思ったのは、日産販売店が24時間一般にも開放している急速充電設備である一方、トヨタ販売店の充電ステーションが営業時間以外使えないことと、営業時間でも客として営業店を訪ねても、充電ステーションのスペースが充電以外の車検待ちなどの車両の仮置き場になっていて、空いていないことである。また200V仕様で時間がかかることもイマイチな点である。受け入れる営業店の立場から考えると気持ちは分からないではない。が、言葉は悪いがケチなような気がしている。これは今後変化を迫られるに違いない。

中国ではすでに充電ステーションで行列ができているというニュースが10月にあった。高速道路で8時間の道のりが充電ステーションにおける待ち時間で16時間になったとか、バッテリー切れが心配で夏場の酷暑でもエアコンをつけずに我慢した、充電待機中はトイレにも行けないため水分補給を我慢した等、過酷な状況が報告されている。

こんな状況を横目にみると、安易にEV購入を控える日本人ユーザーも増えそうである。BEVの充電容量は車体価格にもダイレクトに影響を与えるし、3割も販売される車に手厚い補助金を出すわけにもいかないため、手の届きやすい200万円前後の車種には、最適(言い換えると必要最低限)の容量のEVが設定されるであろう。そうなると、トレードオフとしてどうしても頻繁な充電が必要となる。

その世界では、スーパーなどの商業施設やレストランでは相当数の割合の区画で充電ケーブルが用意される必要がある。困るのはエンジン車がその区画に停まらないようするにはどうするかとか、細かいがそういった議論も沸き起こりそうだ。マンションなど賃貸も入り混じる集合住宅での充電設備の配備も技術的には何ら問題なくても、ポータブルではないとか、権利がどうとか、そういった点もクリアしなければならない。

クルマが生活の足として不可欠な地域では、充電設備があるかどうかが家選びの一つの基準となり、住環境の条件の一つにも加わることも考えられる。本当は集合住宅がよいが、充電ポートがつけられないから一戸建ての住む、などの事例も出そうだ。

充電のためのエネルギー源として、日本は二酸化炭素の排出割合の大きい石炭火力が使われていることが課題への対策として、安定的な電源として原子力発電へのシフトも提唱されているものの、新増設と技術の伝承が困難な日本ではいずれ消えゆく運命であり、一顧の価値を与える必要もない。人口減少前から二酸化炭素排出量が低下している日本において、これから人口減により減少が加速するため、自然減とその中での経済的に最適な電源構成が構築されることに期待したい。

中国では国策として一旦低燃費車から外れていたHEVが優遇の対象として復活・決定した(記事)。上記のようにインフラが未発達であることもありBEVの販売が思ったほど伸びなかったからの措置だという。

世界大手の一角であるトヨタがEVシフトを発表しても、インフラの整備状況によっては中国のような揺り戻しを起こしながら、環境面および経済面で対応可能な変化率で自動車社会に移行していくことになる。

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