先行きが見通せないVUCAの環境にあって、人類史上未だかつてなく長期間働くことになる人生100年時代。国は年金財源確保のために、定年を上げることに躍起な一方、産業界では終身雇用は会社側にインセンティブがないとの発言、45歳定年制、名だたる大企業から相次ぐ早期希望退職など、産業構造変化の奔流によりリカレント教育で間に合わず固定費としての人件費を下げることにこれまた躍起だ。そんなビジネス環境を生き抜くにはこれまでにない発想と考え方が必要だ。その答えの一つがプロティアン・キャリアである。本記事では「プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術(田中研之輔著)」を参考に、人生100年時代に、自己の資本としてのキャリアを組織に預けるのではなく、自分でプロデュースすることを目指す「プロティアン・キャリア」の考え方について解説する。
ここでプロティアンproteanとは、ギリシャ神話に登場する神プロテウスproteusに由来する。プロテウスは古来海の神だったが、変幻自在に姿を変えるために、捕まえることができなかったという。冒頭の画像は、甕皿に描かれたプロテウスで、魚のような胴体を持っている。
上著では、以下のように解説されている;
- プロティアン・キャリアとは:米ボストン大学 ダグラス・ホール教授が提唱した、キャリアの考え方。社会や環境の変化に応じて柔軟に自己の資本ともいうべきキャリアを自らコントロールし、変革し続けることを目指すもの。
- 著者が考察した15項目にわたるプロティアン・キャリア診断を受けると、いまの自分の「プロティアン人材」度を測ることができる。
- ビジネスパーソンそれぞれのキャリア資本をB/Sになぞらえてビジネス資本、社会関係資本、経済資本から成り立つとし、それぞれを構築、蓄積、転換する方法について紹介。
- さらにホール教授が提唱したプロティアン・キャリアを補完する形で、キャリア資本を経済資本への転換の仕方、つまり「稼ぎ方」について6つの類型を示し、実例を交えながら詳述。
筆者の所感として
- 最後の稼ぎ方については、昨今よくある副業や、趣味からの起業を勧めているが、それ以外の実例についても紹介されているので大変参考になった
- 聞きなじみのないプロティアン・キャリアについても、常に従来型のキャリア形成のありかた(教育ー仕事ー引退の単線型)との対比で語られているので初めてでも分かりやすかった
- SNSやYouTubeでは、すでにビジネスで成功した人を中心に副業からの起業の流れを勧める風潮があるが、様々なタイプに分けられており、単に起業するかどうかという単一軸ではなく、いろいろな職業に就いている方に複線的に対応できるよう、網羅的に体系化されているのは良い点だと思った。
ちなみに筆者は、プロティアン・キャリア診断をおこなったところ、15項目中、11項目当てはまった。以前の筆者だとせいぜい6個程度だったが、早期退職時代に割増退職金を高いレートでゲットして経済的自由を確立するためにブログ、せどり、株式投資、転職活動、社外研修に取り組んだりしてきたおかげで、12項目以上というプロティアン人材にあと一歩のセミプロティアン人材との判定だった。
6類型のうち、具体例が上がっていたのは紙面の都合上、トランスファー型(転職)とハイブリッド型(複業)だけだった。残りのプロフェッショナル型(専門職)、イントレプレナー型(社内組織立ち上げ)、セルフエンプロイ型(起業)、コネクター型(コミュニティ立ち上げ)は、今後改訂版があれば追加されていくのかもしれないし、読者に自ら開拓してほしいという思いなのかもしれない。
各々の事例やパターンを見ると、どれもが見たことも聞いたこともないような奇想天外なキャリアというわけではないが、現在の自分の職業や経験値なども踏まえ、自分にあったキャリアパスを体系的にイメージでき行動を起こせそうなのは、本著書の利点であろう。
執筆時点で3刷に増刷され、アマゾンではプレミアが付くほどの人気書のため、ハードコピーが欲しい方は早めの購入をお勧めする。
田中氏の記事も参考にどうぞ。
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