目次
はじめに
値動きが株式に比べれば小さく、かつ円以外の通貨を持つことによる円安対策として、あるいはインフレ対策として、またオルカンやS&P500とペアにしてアセットアロケーションを組む方も多いeMAXIS Slim先進国債券インデックスですが、その中身はよくご存じない方も多いのではないでしょうか。そこで本稿では、目論見書にも書いていない、詳細について徹底解説し、グリップ力を高める一助になれば幸いです。
概要
同ファンドを一言で説明するなら、FTSE世界国債インデックス(WGBI、日本を除く、為替ヘッジなし)の指標への連動を目指す投資信託です。信託報酬は0.154%でeMAXIS Slimシリーズとして業界最安水準を目指すことが謳われています。2024年5月19日時点で、純資産総額は1319.4億円と十分大きい上に、新NISAの成長投資枠で購入可能であることもあって総額は順調に成長しています。
設定時(2017年2月27日)以来の利回りはトータルで38.44%であり、為替変動込みの複利で年利約4.7%(著者計算)にも達する債券投信になります。ただし、その中身について上位を占める割合については目論見書に記載があるものの、全体の詳細については書かれていません。それを次に説明します。
詳細解説
元々のマザーファンドの名称は先進国や新興国など、国ごとの層別は行っていませんが、eMAXIS Slim先進国インデックスが設立された2017年時点では先進国がメインのため、そのように命名されたと思われます。そののち2021年以降中国元が組み入れられたことで、世界国債として債券市場の時価総額に即した姿に移り変わっていたものの、名称は据え置きになったものと思われます。
目論見書には、下表のように組み入れ上位通貨が記述されていますが、その他の国についてはご存じでしょうか。計算してみると、上位10位までで実に98.4%を占めていますが、残り1.6%については、目論見書からは読み取れません。
組入上位通貨 | 比率 | |
1 | アメリカドル | 48.0% |
2 | ユーロ | 32.8% |
3 | 中国元 | 7.0% |
4 | イギリスポンド | 4.9% |
5 | カナダドル | 2.0% |
6 | オーストラリアドル | 1.4% |
7 | メキシコペソ | 0.9% |
8 | ポーランドズロチ | 0.5% |
9 | マレーシアリンギット | 0.5% |
10 | シンガポールドル | 0.4% |
それを探るにはマザーファンドの詳細にまで遡る必要があります。それ以下の通貨の組入比率を野村アセットマネジメントのNEXT FUNDS 外国債券・FTSE世界国債インデックス(除く日本・為替ヘッジなし)連動型上場投信の組入銘柄情報から読み取ると、以下の通りとなります。
組入通貨 | 比率 | |
11 | イスラエルシュケル | 0.32475% |
12 | デンマーククローネ | 0.26052% |
13 | スウェーデンクローナ | 0.18668% |
14 | ノルウェークローネ | 0.15337% |
非常にわずかではあるものの、14カ国の国債の時価総額にしたがって、幅広く分散されていることが分かります。ところで先進国と名がついているにもかかわらず、中国元が入っているのはなぜでしょうか。
先進国債券インデックスに中国元が組み入れられている理由
この理由について調べてみましたが、明確な理由については確認できませんでした。定性的にはGDPで世界第2位の経済大国として、中国の国債市場としてのボリュームも第2位であり、時価総額として日本円を超えて無視できない存在になっているためであること、それに加え、既にバークレイズ・ブルームバーグや、JPモルガンの主要な債券インデックスに組み入れられていることから、FTSEが2020年9月に中国元を今後組み入れていくことを発表し(参考記事1)、主要な機関投資家の意見も聞いたうえで、2021年10月から3年の算入期間を経て、最終的には5.25%まで高める予定とのことです(参考記事2)。ここで2024年5月時点で既に上表で7.0%となっているのは、日本国債を除く%が示されているためです(日本を除かない本来のFTSE世界国債インデックスには日本円は約14%組み入れられている)。
これに対しては、中国特有のカントリーリスクなど反対意見も存在するようです。著者としては有事があれば、その時に引き上げれば良いと考えています。そのリスクはオルカンや新興国株式に組み入れられている中国株式のリスクと同様であり、考え出したらきりがないというのが基本的なスタンスです(何かあればその時はその時)。
使い方と注意事項
上記を踏まえた上での同投資信託の使い方としては、引き続き、円安対策、インフレ対策、株式と対をなすアセットアロケーションの一角として、頼もしい投資商品であると言えます。2024年現在のトレンドとして、株式と債券の連動性が高まり(相関係数が高い)、株価暴落時に必ずしも値上がりは期待できないものの、値下がり幅が株式を超えるとは考えにくいことと、一時値下がっても値上がり圧力は高く、ボラティリティを抑えることには間違いなく寄与することでしょう。
ただし、為替リスクは存在するため、損益分岐為替レートを認識しつつ、円貨も合わせて保持されていくことをお勧めします。
ちなみに著者は2021年から2023年末までドルコスト平均法によって積み立てて放置しており、現在15%程度の利回りで228万円の利益が出ており、アセットアロケーションの心強い一パートを担っており、今後もホールドを続けたいと思います。2024年5月19日時点で155円65銭の米ドル為替レートにおける損益分岐レートは、概算で134円78銭となります。
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